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最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)2769号 判決 1958年10月03日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人樋口俊美の上告趣意第一点、弁護人林幹二の上告趣意について。

所論は、本件を囮捜査であるとし、被告人は囮捜査により犯意を誘発されたものであって、その所罰は憲法一三条に違反するというのである。

しかし、当裁判所の判例(昭和二七年(あ)五四七〇号同二八年三月五日第一小法廷決定・集七巻三号四八二頁、同二七年(あ)五七二七号同二九年一一月五日第二小法廷判決・集八巻一一号一七一五頁)によれば、囮捜査によって犯意を誘発された者も処罰を免れないとしているばかりでなく、本件は記録に徴するのに被告人が捜査官により犯意を誘発されたものと見ることは到底できないから、違憲の所論はその前提を欠くものである。

また弁護人樋口俊美は原審が弁護人の答弁書に対し考慮、判断していないのは違法であり、憲法一三条に違反するという主張もしているが、刑訴三九二条は控訴趣意書につき調査を要求しているが、原判決を維持すべき旨の答弁書についてはその調査を要求してはいない。従ってその判断を示さなくても違法でないし、違憲の所論はその前提を欠くものである。

弁護人樋口俊美の上告趣意第二点は、原審が一審判決を破棄して執行猶予を実刑に改めるに当り、弁護人が申請した証人の取調を却下したのは違法であり、憲法三七条二項に反するというのである。

しかし、原審は一審判決を破棄自判して実刑の言渡をするに当り、同種の他の事件の判決謄抄本を取り調べていて(なお昭和二七年(あ)四二二三号同三一年七月一八日大法廷判決・集一〇巻七号一一七三頁参照)、事実の取調なしに量刑を重く変更したのでないし、また事実の取調の限度は刑訴三九三条に従って原則として裁判所の裁量であるから、特段の事由の認められない本件において弁護人申請の証人尋問をしなかったことが違法とはいえない。違憲論はその前提を欠くものである。

その他の所論は量刑の非難であって何れも上告適法の理由にならない。また本件に刑訴四一一条を適用すべきものとも認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

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